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「────っ!」
俺は慌てて指を引き抜いた。
透子は大きく息を吸ってから身体を丸めて咳き込む。
「ごめん透子。俺────」
自分でも何が何だか、と続けようとしたが、唐突に激しい頭痛が襲ってきた。
思わず透子の上に倒れこんでしまいそうに何とか防ぎ、強引に身体を捻ったら勢い余ってベットから転げ落ちてしまった。
フローリングに身を叩きつけてしまったのも十分に激痛だったが、そんなことよりも頭をカチ割らんばかりの頭痛の方が問題だった。
「歩くん、どうしたの!?」
咳き込み息を整えるのもそこそこに透子は俺に駆け寄ってきた。
透子は必死に何かを俺に呼びかけているようだったが、俺には何も聞こえなかった。
いや、鼓膜は確かに彼女の声を震わせていたが、脳がその情報を受け取れないでいた。
脳そのものが強烈な痛覚を生み出して俺を責め立てていた。
その頭痛は何が原因か。
脳の中心から堪えられんばかりの痛みが込み上がってくる。
反射的で本能のまま、獣のような叫びが自分から漏れている。
透子の声はもう完全に聞こえない。
俺を優しく揺するその姿さえ最早定かではなくなってきた。
視覚が曖昧だ。
光景が認識できない。
光が捉えられない。
頭の痛覚以外のあらゆる機能が停止していく。
それはこの世から切り離されていくような感覚。
これが死の感覚だと言われたら何の疑いもなく納得してしまうだろう。
もう何もわからない。
ただ、ただ、頭が割れんばかりに痛いだけだ。
透子……は、どこに……いるんだ。
俺は、どこへ行ってしまうんだ……
何も認識できない暗闇の中、プツリと、俺の意識は消えた。
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