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どくん────と自分の心臓が大きく跳ねる音が聞こえたような気がした。
透子は冗談を────言っているようには見えない。
その眼差しは真剣で、これがもし演技だとしたら女優を通り越してもやは人を惑わす女狐か女生だ。
しかし、しかしだ。
当の本人が真面目だからといって、こちらもその言葉を真面目に受けていいとは言えない。
確かに透子は美人、美少女だ。
そんな彼女を好きにしていいと言われれば男としてこれ程本望なこともないが……
これはモラルや倫理観の問題だ。
好きにしていいと言われて、はいそうですかありがとう、なんて言えるわけがない。
そう返答に困っていると、
「深いこと考えないで? 私はあなたに全てを捧げたい。これは私に対する恩の正当な対価よ?」
「いや、そんなこと言われても……」
素直にうんと言えることではない。
「もぅ、仕方ないわねぇ。」
透子はすぅっとまた俺に顔を近づけて、俺の顔を両手で優しく包んだ。
そして透き通るような瞳で俺の目を見つめてきた。
透子の瞳はとても綺麗だった。
透き通るようなという表現は決して誇張なんかではない。
吸い込まれてそのまま彼女の中に閉じ込められてしまうのかと錯覚してしまうほどに、透子の瞳は綺麗だった。
「私をあなたの側において欲しいの。
私は魔女だから魔女狩りが現れるリスクは確かにあるけれど、明確な拠点があれば守りを固めることができる。
あなたに損はさせないわ。
私は、私の全てを賭してあなたに尽くし、私の全てをあなたに捧げる。
これは、絶対よ。」
透子の言葉が身体に、心に染み込んで行く。
彼女の言葉に嘘偽りはなく、彼女は必ずそれを実行するであろうという核心に近い何かを感じた。
「透子……」
気が付けば俺は透子の頬をそっと撫でていた。
透子はそっと優しく、見惚れるような笑みを浮かべた。
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