旅立ち

2/27
37人が本棚に入れています
本棚に追加
/319ページ
その日、ナミは土器を作っていた。 朝、目が覚めるといつもより手早く着替えをして 水辺に行き水を汲んで、 朝ご飯の仕度をした。 そして広場に人が集まる頃には 敷物の上で粘土をこねていた。 村長の息子であるタカとその妻になる、 南の村から来た娘が祝詞を受けているのも 村人たちの歓声も聞こえたけれど、 一心に土器に向かっているナミには、 遠い向こう岸の声の様に 心に響いてはこない。 今ナミの心にあるのは タカと過ごした日々であり、 その時のタカの言葉やしぐさ、 自分の気持ちを 無心に指先に託しているのだ。 土器ができあがった時に心が空になるのか あるいはなお一層の執着がうまれるのかは わからない。 ただ、その場にいて タカの幸せを祝福するのも、 家で一人何もせずに涙を流しているのも 辛く耐えがたいだろうなと思えて 一番なじんでいる土器作りに 打ち込むことにしたのだ。
/319ページ

最初のコメントを投稿しよう!