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その日、ナミは土器を作っていた。
朝、目が覚めるといつもより手早く着替えをして
水辺に行き水を汲んで、
朝ご飯の仕度をした。
そして広場に人が集まる頃には
敷物の上で粘土をこねていた。
村長の息子であるタカとその妻になる、
南の村から来た娘が祝詞を受けているのも
村人たちの歓声も聞こえたけれど、
一心に土器に向かっているナミには、
遠い向こう岸の声の様に
心に響いてはこない。
今ナミの心にあるのは
タカと過ごした日々であり、
その時のタカの言葉やしぐさ、
自分の気持ちを
無心に指先に託しているのだ。
土器ができあがった時に心が空になるのか
あるいはなお一層の執着がうまれるのかは
わからない。
ただ、その場にいて
タカの幸せを祝福するのも、
家で一人何もせずに涙を流しているのも
辛く耐えがたいだろうなと思えて
一番なじんでいる土器作りに
打ち込むことにしたのだ。
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