旅立ち

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だから、 男の第二夫人だなんて ばかなことを言っていないで 奥さんになる人を可愛がっておやりよ とナミが言ったら ふわりと柔らかく抱きしめて あやすように背中をなでた。 泣きたい気持ちもしたけれど 包まれる心地よさを じっくり味わっていたい気持ちの方が強くて 長い間うっとりと そのままでいるうちに 涙を忘れてしまった。 その後も会って話しはしたけれど 触れたのはあれが最後になった。 できあがった土器を自分の正面に置いて 両手でゆっくり触っていく。 少しでも触感の違うところがあれば 注意深くなでて馴染ませる。 あの 最後に抱きしめてくれた時の タカみたいだな。 タカのことを思い出せば 苦しくなると思ったのに 不思議と心は穏やかだ。 いつくしんでくれたから、 本当の父が託した命を 新しい父が母と一緒に 大切に育ててくれたように タカもまた 兄であり恋人でもある愛情で 包んでくれた。 そのことを噛みしめながら 土器を作っていたから。
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