第1章

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 それから、俺はまともに弘の顔を見られなくなった。  見るだけじゃない。声を聞くだけで、胸がうずいた。  どうしていいか分からなくて、三年生のときのバレンタインに、  俺は板チョコを弘の机の中に放りこんだ。 「光彦!」  足音が胸に響く。それがだんだん大きくなって、俺の背中をたたいた。 「これ、持ってけ」 「え?」  振り向いた俺の手に、弘はチョコレートの箱を幾つものせた。  それは俺の板チョコ以外の、女子たちからのものだった。 「責任持って、お前が食べろよ」  それだけ言うと、弘は俺を追い越して校門を出て行った。  それきりだ。  俺らが二人で喋ったのは、それきりだった。  そして、あっという間に、別々の高校へ進学した。
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