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それから、俺はまともに弘の顔を見られなくなった。
見るだけじゃない。声を聞くだけで、胸がうずいた。
どうしていいか分からなくて、三年生のときのバレンタインに、
俺は板チョコを弘の机の中に放りこんだ。
「光彦!」
足音が胸に響く。それがだんだん大きくなって、俺の背中をたたいた。
「これ、持ってけ」
「え?」
振り向いた俺の手に、弘はチョコレートの箱を幾つものせた。
それは俺の板チョコ以外の、女子たちからのものだった。
「責任持って、お前が食べろよ」
それだけ言うと、弘は俺を追い越して校門を出て行った。
それきりだ。
俺らが二人で喋ったのは、それきりだった。
そして、あっという間に、別々の高校へ進学した。
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