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その男の馬鹿丁寧な喋り方の裏に見え隠れするのは、威圧感。
男は着ている黒いスーツのジャケットから名刺のようなものを取り出し、おっさんの頭めがけて放り投げた。それがひらひらと地面に落ちる。
「あんたが金を借りてたサラ金業者から、あんたの債権を買いましてね。さしずめ、債権回収代行、とでも言いますか」
おっさん、黒沢さんが名刺を指先で摘み上げる。それには「株式会社 タニザキ」という企業名と、「坪内勝」という名前が記載されていた。
金を借りてた、
債権回収代行、
もしかして、この黒沢っていうおっさんが、先生を借金の連帯保証人にした友達って奴なのだろうか。
もし、本当にそうだとしたら、さっきのこの人の態度も腑に落ちる。
「俺たちも手荒なことはしたくありません。利息含めて一千万、きっちり耳揃えて返してくれりゃあそれで構わないんです」
「いっせ……!」
その金額に驚き、思わず声を上げてしまった俺は、慌てて掌で口元を塞いだ。
それに気づいたガタイのいい男、坪内が俺の目の前にしゃがみ込み、じっと俺を見つめてきた。
心臓のバクバクが、まるで時限爆弾みたいだ。
「黒沢さん、隣の坊ちゃんは、あんたの息子さん?」
「ちっ、ちが……違いま……!」
俺はぶんぶん、と首を振った。こんな危ないことに関わってたまるか。黒沢さんには申し訳ないけど(いや、借金しちゃってるんだから仕方ないよな)、ここは、しっかりこの方々に返済をして貰うしかない。
そうすれば、先生もーーーー
「わ、私は、サラ金業者に説明していた筈だ!借金は全て、連帯保証人の、小鳥遊エイスケが払うと……!」
えええええええええ!?!?
このおっさん、今、なんつった!今、とんでもないことを口走りやがったぞ??
俺は隣で、空いた口が塞がらない。
坪内は、顎をさすりながらぼんやりと何かを見上げている。視線の先には、玄関に貼られている「小鳥遊」の表札。
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