第四章 「マネー!マネー!マネー!」

12/45

880人が本棚に入れています
本棚に追加
/274ページ
庭でゴローが鳴きわめいているのが聞こえる。 緊急事態を感じとったのだろうか。 俺と黒沢のおっさんは台所で拘束されることになった。 背中合わせになるようにして、後ろ手に腕を縛られ、全く身動きが取れない。 これが縄だったら、先生に教わった方法で縄抜けできるかもしれない、と考えた俺が甘かった。縄ではなく、三島という男のベルトと、俺のベルトでぎっちりと縛られてしまったのだ。 おまけに、足もガムテープでガチガチに固められている。 こんなの、ただの借金の取り立てにしてはやり過ぎじゃないのか。 逃げた前科のある黒沢のおっさんならまだしも、何で俺まで巻き込まれてるんだ。 自分の不幸っぷりにもう言葉も出ない。 坪内、三島のヤー公二人は、玄関の辺りでタバコを吸いながら何か喋っている。 ああ、今の間に逃げることができたらいいのに。 「た……谷崎組だ……」 俺の背後で、黒沢のおっさんがぼそりと何かを呟いた。 「谷崎組って……?」 「……関東を仕切ってる巨大なヤクザ組織だよ。あの、坪内という男の名刺に株式会社タニザキって書いてあったから多分間違いはない……」 谷崎組、言われてみれば、ニュースなんかで耳にしたことがある名前だ。 しかし、突然ニュースの中の人間がぽん、と目の前に現れても、現実味なんて早々は湧いてこない。 「……なんであんな奴らに債権を……」 黒沢のおっさんの声が震えている。それを聞いて、俺の掌がしっとりと汗ばんできた。 「……谷崎組って、何かヤバいんすか……?」 「……金のためなら手段を選ばず、一般市民にでも手を出す、最低の輩だ……」 ごくん、と喉を鳴らして唾を飲み込んだのは俺だ。 「ちょ、そんな、借金くらいで、何かされるなんてこと……」 「前にニュースになってたの君は見たことがないのか……?彼らが経営してる風俗店で、違法な代金を請求された客が、それを踏み倒そうとして、射殺された事件を」 「しゃ……射殺……」
/274ページ

最初のコメントを投稿しよう!

880人が本棚に入れています
本棚に追加