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確かにそんな事件で、一時期ニュースが賑わっていた気がする。
それが、谷崎組の起こした事件だとは知らなかったが。
でも、借金で殺されるなんて話聞いたことはない。
まあ、さしずめ、マグロ漁船に乗せられて逃げ場なく働かされるとか、臓器売買だとか、まあ、まあ、そのレベルの……
(それなら死んだ方がマシだろ!)
俺はがっくりと項垂れた。
しかし、俺はいい。
俺は全くの無関係だということを証明すれば、きっと何の被害も被ることはないだろう。
しかし、先生は違う。
例え紙の上の話だとしても、連帯保証人になることを承諾した上で、ハンコを押してしまってるのだから。
借金をした本人と同等に、返済義務があるということだ。
「……もう、完済されているのかと思っていたのに……」
黒沢のおっさんの呟いた言葉に、俺は自分の耳を疑った。
そうだ。
この人はさっき、借金を全て先生に払わせる約束をした、と、信じられないことをあいつらに言っていたじゃないか。
俺は身体を捻り、黒沢のおっさんを睨みつけた。
「オイ、さっきから聞いてりゃ、あんたおかしいんじゃないのか。一千万なんていうデカい借金したの、あんただろ。先生じゃない。なのになんで、先生があんたの借金背負わなきゃならねえんだよ」
「……エイスケなら、一千万なんて……すぐに稼げる」
「はァ!?」
あの先生が、一千万を稼げる、だって?
数々のアルバイトを首になり、へろへろのカーディガンとシャツが一張羅で、冷蔵庫の調味料舐めて暮らしてた先生が、一千万?
このおっさんは、先生を誰か違う人間と勘違いしているのではなかろうか。
しかし、今はそこが問題なのではない。
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