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「ちょ、ちょっと待った。百歩……いや、百億歩譲って先生が一千万を稼げたとしても、それを先生が払う義務は……」
「……あいつのせいで……俺は全てを失ったんだ……それくらい……当然だ……」
「……何だって……?」
まるで、譫言のように呟かれた言葉。
恨み節というよりは、どこか寂しげな声だった。
このおっさんも馬鹿だが、先生も馬鹿だ。
どうしてこんな人間の連帯保証人なんて引き受けちまったんだよ、あの、超ウルトラスーパーアルティメットお人好しジジイめ!
もしこんな現場に先生が帰ってきたら、一体どうなってしまうんだろう。
先生のことだ。何年かかっても黒沢のおっさんの代わりに借金を払い続けると約束してしまうんじゃないだろうか。
しかし果たして、あいつらがそれで「はい、そうですか」と納得してくれるのか。
「小鳥遊さんはいつ頃帰ってくる予定ですか?」
坪内がドスドスと足音を響かせながら、咥えタバコでこちらに近づいてくる。
俺と黒沢のおっさんに再び緊張が走った。
「……わ、分かりま」
「い、一時間くらい、なあ、そうだよな、君」
敢えて返事を濁そうとした俺の言葉に、おっさんが被せて返事をした。
いつになるか分からないと思わせれば、一先ずこいつらを退散させることもできたかもしれないのに。
俺はおっさんをまたジロリと睨んだ。
「一時間……まぁ、のんびり気長に待ちましょうかね」
坪内は台所のテーブルに腰を下ろし、堂々と床にタバコの灰を落とした。
口と鼻から煙を吐き出すその様子が、とてもふてぶてしい。
「さ、さっきも言ったが……私の借金は、全て小鳥遊エイスケが返済する、という形で話がついていた筈だ……!」
おっさんが身体を捩じり、大声で坪内に主張した。
このおっさん、まだ言うか!
「そうですねえ。確かにそんな話を聞いていた気がします」
「気がするって……ちゃ、ちゃんと確認してくれ……!」
「でもね黒沢さん」
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