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「…………ウッ……!ゲッ、ゲホッ……ゲホッ……!!」
「お、おっさん……!」
おっさんは身体を丸め、激しく咳き込んだ。
「今更正義漢気取ってんじゃねぇぞこのカスが!!金返せないなら、最初から借りなきゃ良かったんじゃねぇのか、アァ?違うかァ!!」
「ウッ……ゲホ、ゲホッ……」
「あぁ、近づかねぇよ、てめぇがキッチリ一千万払うんならな。もし払えねえなら、高いトコから飛び降りて貰おうか。あんたにたっぷり保険金つぎ込んでからなァ!!」
坪内の振り上げた拳の甲がおっさんの頬にぶつけられ、骨と骨がぶつかる嫌な音が響いた。
おっさんが倒れると、一緒に腕を繋がれている俺も引っ張られ、二人で床に横転した。
「……お、おっさん、おっさん……!」
俺が声をかけてもおっさんから返事はない。これくらいで死ぬ筈はない。気を失っているだけだろう。
坪内が俺たちを見下ろしている。
怖い。
怖くて怖くてたまらない。
上と下の歯がぶつかり合って、ガタガタ鳴るくらいに俺は震えていた。
なんで、なんでこんなことができるんだ。
「坪内サァン!なぁ、この家、なんか変でぇ」
その時、台所の入口から素っ頓狂な声が聞こえてきた。
呼ばれた坪内と俺がそちらに視線を向けると、そこには三島が立っていた。
着ている派手な柄のシャツに手を突っ込み、ボリボリと腹を掻いている姿がまるで子どもみたいだ。
「……三島、お前何やってんだ……」
「イヤ、何か金目のもんないかぁ思うて家ん中見よったんじゃけど、この家、変なぁの」
三島の声で張り詰めていた糸がぷつり、と切れた。
どうやら俺は暫く息を止めてしまっていたようで、瞬間、夢中で息を吸い込んだ。
「俺たちは遊びに来てんじゃねぇんだぞアホが!!」
坪内に怒鳴られ、三島があさっての方向を向いて舌を出す。
鳩たちの部屋でも見たのか。それとも南京錠で閉じられた黒い箱だらけの部屋を見たのか。
まあどちらにしろ、確かにこの家はおかしい。
「……三島、お前暫くこの二人見張ってろ」
「へぇ?」
「俺は少し出る。すぐ戻ってくるから、もしコイツらがおかしな動きを少しでもしやがったら、ブン殴っとけ」
「はぁ」
「殺すなよ」
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