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「まあ、安心しんさい。あんたは関係ないんじゃろ。お口チャックでおとなしゅうしとったらええ」
「……先生に100万は払えない」
「おん?先生て?」
「……小鳥遊エイスケだ」
「ほうか。そらまずいな」
「どうなる?……先生はどうなるんだ?」
俺が身を乗り出すと、三島はニヤリとした。
胸ポケットからぐしゃぐしゃに潰れたタバコの箱を取り出し、残りの一本を口に咥える。
ライターを忘れたのか、一度立ち上がってキッチン台のコンロをひねった。そこで火を拾い、うまそうにタバコの煙を吐き出す。
「さーあ。コトリアソビて、ジジイじゃろ?あんたの後ろでのびとるのもジジイや。ジジイは臓器も金にならんじゃろうからな。まあ、手っ取り早いんは、坪内がゆうてた飛び降りか」
そんな話があってたまるか……!
俺の頭の中に、先生のあのお人好しのとろんとした笑顔が浮かぶ。
散々な人生を過ごした挙句、保険金かけられて飛び降り自殺させられるなんて、
そんな悲劇、今時映画にもなりゃしない。
「……どうにか、これからちゃんと払っていくとか……」
「やから、今日100必要なんやぁて。坪内の機嫌悪うしたら、三人揃って行方不明じゃ」
一体どうしたら事態は好転してくれるんだろう。
俺は馬鹿だから、全く良い手が浮かばない。思い浮かぶのは、最低最悪の未来ばかりだ。
情けないけど涙が出そうで、俺は顔を俯けた。
「……あんた、なかなか可愛い顔しとんの」
目の前にふと影ができたのを感じる。
そばには三島が立っていた。
その膝が浮き上がったのが見え、蹴り飛ばされるのかと思えば、足のつま先で顎を持ち上げられた。
無理矢理顔を上向けられ、俺は泣きべそをかく寸前の顔を見られてしまった。それを見て、三島が笑う。
「……変なぁの。あんた、コトリアソビのなんなんや?」
「何って、ただの……」
「スケか」
「?」
三島の言ったことの意味が分からず俺が首を捻ると、三島は俺の顎を解放し、その場にしゃがみ込んだ。
三島の咥えているタバコから立ち昇る煙が目に染みて、俺は顔を背ける。
すると、何故か三島の腕が俺の腰の辺りに伸びた。
「あんたコッチやろ。……見てたら分かる」
「いっ……!」
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