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「お、おっさん……大丈夫か?」
上体を捻って背後を振り返ると、黒沢のおっさんはとても虚ろな横顔をしている。
ぐうすか寝ている三島の様子を一度確認して、俺は小声で声を掛けた。
「……どっか痛いか?具合は?」
「大丈夫……大丈夫だ……」
元から小柄なのに、身体が丸まり、更に縮こまって見える。
「君は……エイスケの弟子ではなかったんだな」
そう言われて、俺は一瞬黙った。
もしかして、おっさんはさっきの俺と三島の会話を聞いていたのだろうか。
「ああ……はい。色々あって、今はここに居候させて貰ってますけど……」
「ここは、ちっとも変わってないな。……私が住んでた時と、全く同じだ……」
「え?住んでた、って……」
おっさんは小さく笑い、ぐるりと台所を見渡した。
「……ここは、元々エイスケの家じゃない。エイスケのお師匠さんの家なんだ」
この家が、先生の師匠の家?
師匠ってことは、手品の師匠ってことか?
そんなの、初耳だ。
というか、先生と話すのは昼飯と夕飯の献立についてくらいで、そんなに込み入った話をしたことがないから当然といえば当然なのだが。
「君は、小鳥遊一二三という手品師を知っているかい?」
「……たかなし……ひふみ?」
「その人が、俺たちのお師匠さんだ。君のご両親に聞いたら分かるかもしれないな。小鳥遊一門て言ったら、日本でもある程度有名な手品師の集団でね。テレビなんかにも、よく出ていたよ」
「……………」
「その人が、私たちのお師匠さんだ」
確かに子どもの頃、テレビでマジックショーのようなものをテレビで見たことはある気がする。
小鳥遊一門なんて、そんな落語家みたいな名前は初耳だが、もしかしたら、一度は目にしたことがあるのかもしれない。
あれ、ちょっと待て。
今、「私たち」っていわなかったか?
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