第四章 「マネー!マネー!マネー!」

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「……とても悔しかった。それで、考えたんだ。何か、別のことで、成功したらいいと。手品じゃなくても、師匠より、エイスケより金を稼げるようになろうと」 おっさんの言葉の端々が、段々強くなっていく。 そこに見え隠れするのは、先生への「嫉妬」だ。 はっきりとした、劣等感だ。 「……それで、劇場を作ったわけか」 「同時に、新米手品師の養成スクールを作ったりもした。一時期は凄かったよ。エイスケを舞台に呼べば、客は溢れるほどだったし、スクールへの入学希望も、待ちがでるほどでね。ああ、大成功だと思った……」 「……じゃあ、どうして?客が入らなくなったのか?ブームが去って?」 世間の流行は、その字の通りするすると流れて行くものだ。 人は飽きっぽい。 そして飽きたら、なんの未練もなく、捨ててしまう。 俺だってきっとそういう人間のひとりだ。 「エイスケが、ある日突然、手品をやめてしまったからだ……」 「……え…………?」 「……それとともに、客足は途絶え、スクールも退学希望者が増えて行った。ついには劇場もスクールも、全て撤退せざるを得なくなった……結局私に残ったのは、二つを創立者した時に作った、多額の借金だけだった」 それで、一千万の借金。 「……私は妻にも……家族にも捨てられた」 「…………」 「エイスケが、手品を辞めなければ……こんなことにはならなかったかもしれないのに」 おっさんの話を聞きながら、俺はずっと喉に魚の小骨が刺さったような感覚に陥っていた。 なにかが、おかしい。 腑に落ちないのだ。 その理由が、やっと分かった。 「ちょっと待とうぜおっさん……!劇場とスクールがダメになったのは、先生が手品を辞めたからだって言いたいのか?」 「……そうだよ。エイスケは私と契約を結んでいた。あいつは……それを破ったんだから。あいつも、ちゃんと返済を約束してくれた。自分が責任をとると」 だから、おっさんは借金を全て、先生に背負わせようとしているのかーーーー。 俺は二人のイザコザに全く無関係だが、開き直りとしか思えないおっさんの言い分に苛立ちを覚えた。 「そんなの、おかしいだろ……話きいてりゃ、はじまりはあんたの逆恨みからじゃねーか」 「……君には、分からないよ。師匠に裏切られた時の……私の絶望感は」 「裏切られたって、それは……」
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