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三島は寝ぼけ眼で俺とおっさんを交互に見つめ、グシャグシャになった頭を掻きながらまた大欠伸。
「ふぁ……金策会議は終わったんか、お二人さん」
「………………」
「帰ってきたで」
何が?と尋ねる前に、玄関のある方向からバタン、と扉が開け閉めされる音が聞こえた。
心臓がどくっ、と大きく跳ね上がる。
こちらへ近づいてくる足音が次第に大きくなっていく。
この足音はーーーー、
「……これは一体、どういうことですか……?」
先生だ……!
家を出た時と同じ、よれっとしたスーツを着た先生が帰ってきた。
まだ何の解決もしてないのに、俺は先生の顔を見た途端何故か安心してしまい、急に泣きそうになってしまった。
先生は拘束された俺たちの姿を見るなり、細い目をめいっぱいに開いた。
「……優作さん……と、……チー坊……?」
「エイスケ……!」
「せ、先生……!」
チー坊、とは黒沢のおっさんのことか。
先生は、自分に借金を背負わせた友達と久しぶりの再開がまさかこんな形になるとは、きっと想像もしなかっただろう。
すると先生の真後ろに、ぬっ、と大きい影が現れた。
「……これで役者が揃ったってとこですかね。……クソみてえな役者ばっかりだが……」
坪内だった。
いつもはのどかな家の台所に緊迫感が走る。
先生は自分の背後に立つ坪内をちらりと横目で確認し、いつになく厳しい表情を浮かべた。
先生の眉間に嫌悪を表す深い皺、なんて、多分俺がここへ来て始めて見る。
「……やあ、いつもやってくる借金取りさんとは違いますね」
「ええ。しかし今は俺たちが債券回収代行、ということになっていましてね」
坪内は先生の正面に回り込み、ポケットからタバコとライターを取り出して、一本ふかしはじめた。
踏ん反り返った、例のふてぶてしい態度で。
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