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「そうですか。……前の方々から、聞いてはおりませんか?僕は返済を行っています」
「ええ、聞いてはいますよ。借金をした当時から、15年以上かけた今も、完済しきれていないことはね」
「ええ……確かに、そうです。しかし、僕は違法な利息分はお支払いする気はありません」
先生は思いの外毅然とした態度で、坪内をまっすぐに見つめている。むしろ、見ているこちらがヒヤヒヤしてしまうくらいに。
坪内は胸を大きく膨らませてタバコを吸い込み、首を傾けるようにして先生の顔に白い煙を吐き出した。
「……契約書、見せましょうか、小鳥遊さん?あそこにいる男が金を借りる時に書いた契約書には、ちゃんと記載してあった筈ですよ」
すると、俺の後ろに居るおっさんが突然身をのりだした。
「でっ、でたらめだで……!そんなこと契約書には……!」
「てめぇは黙ってろカスが!!」
坪内がおっさんを睨みつけ、空気がびりびりと振動するくらいの大きな声で怒号した。
おっさんは坪内に威嚇されてまた縮こまってしまった。
ちなみにこんな状況になっても一人のんきな三島は「うるさ」と、小さく呟き、迷惑そうに自分の耳を塞いでいる。
「小鳥遊さァん、あそこにいるクソ野郎がね、返済は全てあなたにって言っているんですが……それでよろしいですかね?」
名指しされたおっさんはびくりと肩を震わせた。
俺は心の中で必死で祈るように何度も、呪文のように同じ言葉を呟いた。
お願いだ。
先生、否定しろ。
頼むから、ちゃんと、自分に非はないことを証明して、否定しろ。
ーーーーああ、でも、でも。
「ええ。構いません。黒沢千歳のした借金は、僕が返します。しかし、借りた金額と、それに見合った利息のみを」
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