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「命令してんじゃねえぞコラァ!あぁ、解放してやるよ、てめぇが今すぐここでキッチリ金を返せばなァ!!」
「額は?」
「一千万だ」
その言葉に、先生が顔を俯けてふっと笑った。それを見た坪内のこめかみに、青筋がくっきりと浮き出ている。
なんでこんなときに笑ってんだよトンチンカン!
「そんな額、ポン、と払えるわけはないこと、あなたも分かっているでしょう」
「さっきから舐めたこと言ってんじゃねえぞ、なぁ、オイ!ジジイ!てめえ自分の立場分かってんのか!」
「100じゃ」
坪内が先生の胸ぐらを掴み上げた瞬間、三島が胡座をかいて座ったまま突然声を上げた。
「あんたが今の今まで借金の返済を伸ばし伸ばしにしとるんを、こっちは許したるって、ゆうとんじゃ。じゃけえ、あんたも誠意見せぇ。なぁ、坪内さん」
「三島ァ!てめえは黙ってろ!」
怒鳴られ、三島は戯けたように笑った。
三島の声で熱が覚めたのか、坪内は先生から手を離し、また新しいタバコを一本咥える。
「……いいか、ジジイ。払えるわけはない、じゃ済まされねえからな。今日は100万で許してやる。ここにねぇならどっかで今すぐ金作って来い!」
「………………」
「もしあんたが無理だってんなら、黒沢の家族どもの所に行くまでだ。娘が難病だか何だか知らねえが、治療費に溜め込んでる金を根こそぎ拝借するしかねぇな」
先生がその時初めて、視線をちらりと黒沢のおっさんに向けた。
俺の手首と一緒に繋がれてるおっさんの腕が、身体が、震えている。
もしかしたら、泣いているのかもしれない。
俺だって、こんなに怖くて仕方ないのに、おっさんはどれだけの恐怖を抱えているのだろう。
そして、先生は今、何を考えてるんだ?
その険しい横顔からは、何の色も読み取れない。
先生はスーツの袖で唇の血を拭った。
その口元が、笑っている。
俺の見間違いかと思ったが、確かに、笑っていたのだ。
「分かりました。今から100万円、用意しましょう」
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