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坪内と三島が、何やらこそこそと会話をしている最中に、先生が台所に戻ってきた。
なんとその腕に、小さな黒い箱を抱えていた。蓋には、南京錠。
ああ、
俺はあれを見たことがある。あれよりもっと、大きな箱がわんさか並んでいるのを。
まさか本当に、先生は金を持っていたというのか。
俺は深く、長い息を吐いた。
貯金もないくせに、金に頓着のない大間抜けだと思っていたが、違ったのだ。先生は、俺に渡している通帳とは別に、ちゃんと金を保管していたのだ。
「何じゃ、本当に持ってきよったんか。……つまらん」
先生が台所の中央にあるテーブルに置いた箱を見つめ、心底つまらなそうに呟いたのは三島だ。坪内が、その頭をバシリとはたく。
先生はポケットから小さな鍵のようなものを取り出し、南京錠に差し込んだ。
緊迫した空気の中、カチッという錠が外れる音が、やけに大きく響いた。
先生が箱の蓋に手をかけた瞬間、俺とおっさんが同時に身を乗り出した。
パカ、と開いたその箱の中に入っていたのは、まさしく。
「…………なんだ、こりゃァ?」
まさしく、
まさしく、
まさしく。
箱いっぱいに敷き詰められた、一万円札と同じサイズの新聞紙だった。
ズコーーーー!といきたい所だが、今はそんな空気じゃない。箱の中身を目にした坪内の顔が、みるみるうちに赤く染まっていく。
タバコを摘まんでいる掌が、目に見える程、怒りに震えていた。
なのに、先生は真顔のまま箱の中の新聞紙を見つめている。
「てめえジジイ!!ふざけてんのかコラァ!!さっきから舐めくさりやがって!誰がこんなもん持って来いって言った!!アァ!?」
腹の底に響く程の坪内の叫び。そのそばで、三島は腹を抱えてゲラゲラと笑っている。
確かに、こんな時にやっていいジョークじゃない。先生は一体何を考えてるんだ。
坪内はタバコを放り、着ているジャケットの懐に手を突っ込んだ。
そこから、ぬっ、と姿を現したのはなんと拳銃だった。
ドラマや、映画でしか見たことはないけれど、あれは多分本物の拳銃だ。
その銃口が、先生のこめかみに突き付けられた。
それを見た瞬間、俺はまるで貧血にでもなったように目の前が真っ暗になってしまった。
「……気が変わった。小鳥遊さん、あんたにはここで死んで貰うことにする」
「………………」
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