882人が本棚に入れています
本棚に追加
内臓が身体の中で大きく波打ち、俺は吐きそうになる。全身にはびっしょりと汗をかいていた。
先生、と呼びたいのに、顎が震えて過ぎて声が出せない。
ーーーーどうしよう。
このまま、先生は殺される。
目の前で、頭を撃たれて、きっと血をたくさん流して、倒れて、もう二度と起き上がれなくなる。
目を開かなくなる。
声を出せなくなる。
俺はまるで首を締められているように息苦しく、はっ、はっ、と荒い息を繰り返した。
「そうされても仕方ねえことをてめえはやったんだ。ここでのたれ死にやがれ、ジジイ!!」
「……っ!!ちょ、ちょっと、待ってくれ!!」
坪内が銃口で先生のこめかみを抉った瞬間、俺は全身の力を振り絞るようにして声を上げた。
それはまるで、自分の声じゃないみたいに、掠れていた。
その場に居る全員の視線が俺の方に向く。
俺の心臓は、もう今日何度目かわからないくらいの大振動を繰り返している。
「……み、三島!さっき、俺に言ったろ!」
「……おん?」
「お前が言ったこと、何でもする!それ以外でも、何でも、俺が何でもするから……!ジジイより俺の方が金になることがあるんだろ!話をつけてくれ!頼む!先生を殺さないでくれ……!」
頭で何かを考えて言ってるわけじゃない、無意識にその言葉が口をついて出ていた。
俺はこんな人間じゃないのに、一体どうしてしまったんだろう。
自分自身でも分からない。
「……お願いだから……殺さないでくれ……頼むよぉ……」
それでも、
先生が目の前で殺される所なんて見たくない。
見るくらいなら、死んだ方がマシだ。だって俺が今ここに居るのは、生きているのは、あの人のお陰なんだから。
熱くなった両目から溢れた涙がバタバタと床に落ちていく。視界は揺らぎ、もう先生の顔すら見えない。
「……三島、何の話だ……?」
「ああ……えーと……」
すると、バラバラバラと何かが落ちる音がした。
何かと思って顔を上げると、先生が箱を持ち上げて、その中身をテーブルにぶちまけていたのだ。
「ヤクザ屋さんなら、興の一つも、理解はして下さると思ったんですが」
先生は、あの顔になっていた。
俺が首吊り自殺をしようとした時、スリーカウントをした、あの時の顔に。
「……何言ってやがる?てめえ」
「今から、僕がここにある新聞紙を全て万札に変えてみせます」
最初のコメントを投稿しよう!