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やっぱりだ。
全てを理解した途端、涙がぴたりと止まった。
こんな状況で、先生は手品をするつもりなんだ。坪内はそれを聞くなり一瞬真顔になったかと思えば、大声を上げて大爆笑し始めた。
「自分が殺されると思って、頭がおかしくなったのか、てめぇは!!」
そうだよな。
笑えるよな。笑っちゃうよな。
そんなこと、ハッタリだと思うよ。
100人居れば、99人は、そう思うだろう。
"新聞紙を万札に変えることなんて、できるはずがない"と。
「それとも何か?今俺の目の前に居るのは、魔法使いか何かだっていうのか?アァ?」
いや、違う。
そうじゃない。
先生が、一枚の新聞紙を指で摘み上げた。
坪内がバカ笑いをぴたりと止める。
先生は、魔法使いじゃない。
「…………手品師だ……」
聞き取れないくらいの小さな声で呟いたのは、黒沢のおっさんだった。
「……ヤクザ屋さん、あなたは、奇跡を見たいとは思いませんか?」
まるで試すような口ぶりの先生を見てニヤリと笑い、坪内は拳銃をテーブルに叩きつけた。
「面白いじゃねえか……!やってみろ!」
「……その代わりと言ってはなんですが、全てを万札に変えられたら、黒沢と優作さんは解放して下さい」
「ああ、約束してやるよ!できるもんならな!!」
もし失敗すれば、先生はゴミのように殺される。
でも、不思議と俺は、もう何も怖くはなくなっていた。
先生の指先を見ているだけで、呼吸すら穏やかになってくるようだ。
だってあの人が、
失敗なんてするわけないじゃないか。
「……それでは、大成功した暁には、拍手、大喝采をお送り下さい」
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