第四章 「マネー!マネー!マネー!」

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先生は摘み上げた新聞紙を指先でパン、パン、と弾いた後、それを何重にも折り畳み始めた。 全員の目が、先生の指に集中する。 折り畳んだ新聞紙を、次はゆっくりと丁寧に開いていく。 開いた瞬間、 先生の指先が摘んでいるのは新聞紙ではなく、本物の一万円札に変わっていた。 それを見てあっ、と声を上げたのは誰だったか。 先生はその一枚をそっと箱の中に入れ、再びまたテーブルの上の新聞紙を拾い上げた。 そしてまた、同じように折り畳んでいく。 折り畳んでは開き、 折り畳んでは開きを繰り返し、箱の中は万札が積み重なっていく。まるで一つの映像の連続再生を見ているような錯覚に陥る。 先生は睫毛を伏せたまま、もくもくとその指先から万札を生み出していく。 先生は、 "あなたは、奇跡を見たいとは思いませんか?"と言った。 確かにこれは紛れもなく、奇跡だ。 新聞紙が一万円札に変わればいいのに、 金に困ったことがある人間なら、きっと一度は考えたことがあるだろう。 万札が、掌から、こぼれる。 その愚かな夢を叶える、奇跡。 俺はただその夢を、ぼんやりと眺めていた。 「ふざけてんじゃねえぞコラ!!ジジイ!こんなことが……!」 坪内は万札が放り込まれた黒い箱に掌を突っ込み、中身を掴み出した。それを一枚一枚確認し、愕然とした表情を浮かべている。 「っこんなこと……!」 そうさ。 誰だって、信じられないよなこんなこと。 先生が30枚ほどの新聞紙を万札に変えた瞬間、坪内がテーブルに置いた拳銃を掴み、再び先生の頭に突き付けた。 俺とおっさんは同時に息を飲んだが、先生は眉一つ動かさない。 「おいジジイ、俺をおちょくるのがそんなに楽しいか……アァ?」 「おちょくる?……別に僕はあなたをおちょくっているわけではありません。あなたに100万円をお渡ししようとーーー」 「アァ、そうかよ!!なら、その調子で一千万用意してみろよ!!できねぇって言うなら、撃ち殺してやる!!」 「……さっきはそんな話していませんでしたよね?」 「うるせえ!!黙れクソジジイが!!!」
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