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「み、三島!何チンタラしてやがる!行くぞ!こんなでたらめなジジイに付き合ってられるか!」
「へえ?あ、ハァイ」
大きな足音を立てて、尻尾を巻いて逃げるように坪内が台所から去っていく。
三島はそれを追いかけようとしたが、何故かぴたりとその足を止めた。
何かを思い立ったように振り返り、つかつかと先生に近づいていく。
下から覗き込むように先生に顔を寄せて、にやにやと笑みを浮かべてみせた。
「なぁ、あの箱ん中の」
「………………」
「何枚が、ホンモンじゃ?……二枚くらい?」
三島の質問に、先生は答えない。
ただ、小首を傾げてみせるだけだ。
「なぁ、俺がもう少し偉うなったら、あんたを手元に置くことはできるんかのお?」
「…………あなたが偉くなるまで、僕が生きていたらね」
「ハハハハハハッ、そらほうじゃの」
三島はからからと笑った後ちらり、と俺を見つめ、ひらひらと掌を振ってみせた。
まるで友達にでもするように。
そして、坪内の後を追うように、家の中から出て行ってしまった。
玄関の扉が閉まる、バタン、という音が聞こえると、俺は全身の力が抜けていく気がした。へなへなと、くにゃくにゃと。軟体動物にでもなったみたいだった。
なんてえげつない、台風一過、だ。
こんな体験もう二度としたくない。
「優作さん、チー坊、大丈……」
「オイコラ!先生!」
小さく息を吐いた後、慌てて俺たちに駆け寄ってきた先生を俺はめいっぱいに怒鳴りつけた。
「は……はい?」
「さっ、最初っから、言えよ!!谷崎組の組長と知り合いだって!!」
「え?」
先生は俺を不思議そうに眺め、首を傾げてみせる。
「それ言えばあいつら早々に居なくなってたろうが!!!隠し玉出すのが遅すぎるんだよ!!」
「ま、まさかさっきの二人、谷崎組だったんですか?」
「はァ?!それ知ってて言ったんじゃないんですか??」
「知りませんよ。だって優作さん教えてくれなかったじゃないですか……!」
「………………」
「そうかあ。いやあ、ラッキーでしたねえ。そんな奴知らないって言われたらどうしようかなあーと思っていたんです」
「……あ、あり得ねえ……」
「色んな人と仲良くなっておくものですね」
俺は言葉を失った。
俺だったら、頭に拳銃突き付けられた瞬間に言ってる。
なのに、このおっさんはあんな奴ら相手に手品まで披露しやがって。
もう、空いた口が塞がらない。
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