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俺とおっさんの腕を拘束していたベルト、足を縛っていたガムテープが解かれ、数時間ぶりに身体が自由になった。
手首には赤い鬱血の跡が残り、足は指先まで痺れて立ち上がれない。
「……チー坊、久しぶりだね」
その、いつになく優しい声色に俺ははっとした。
俺と同じく、立ち上がれずに壁に背をもたれさせるようにして座ったままの黒沢のおっさんのそばに、先生がしゃがみ込む。
おっさんは先生と目を合わせないよう、斜め下を向いて俯いている。
そりゃあ、友達を売ろうとしたんだ。合わせる顔なんてないよな。
ああ、そうだよ。
俺はおっさんを一発、ぶん殴ってやりたいと思っていたんだっけ。
「……僕もだが、お前も随分老けたな」
「………………」
先生がおっさんの肩に手を乗せようとした。が、おっさんがビクッと身体を震わせたので、先生はすぐにその手を引っ込めてしまった。
「懐かしいだろう……?この家は、あの頃から何も……変わっていないからね」
昔からの知り合いというのは、どうやら本当らしい。
先生は自分の中で言葉を選んでいるように、慎重に言葉を選んでいるように見える。
おっさんは先生を妬み、恨んでいると言った。
でも、先生は違うようだ。
本当なら、先生がおっさんを恨んでいい立場だというのに。
懐かしそうに目を細め、じっとおっさんを見つめている。少しだけ、寂しそうな眼差しで。
「……手品……」
おっさんが小さく漏らした言葉に、先生は耳を傾ける。
「……やっぱり、やっていないのか……」
「ああ。……ごめん。チー坊。お前と、約束したのに……」
「…………」
「僕はお前を、苦しめてばっかりだね」
先生が謝ることなんてどこにもないだろ、
そう言ってやりたい。
でも、言えない。
俺はただの部外者だからだ。
おっさんが下唇を噛み締め、ぎゅっと拳を握り締めた。
「チー坊、どうして今、ここへやって来たんだい?」
「………………」
「何か、僕に用があったんじゃ……」
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