第四章 「マネー!マネー!マネー!」

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「ごめんな。僕には今、これだけしか、ないんだ。でも、何かの足しにはなるだろうか?」 「………………」 「……ならないかな……でも、お前、家族とは、長い間会っていないんだろう?これを持っていけば、少しでも、顔を合わせやすくーーーー」 通帳を掴んだ先生の掌が、おっさんに勢いよくはたかれた。通帳が指先から吹き飛び、床を滑っていく。 俺は堪らず、声を上げてしまった。 「おい、おっさん!てめえ……!!」 「エイスケ、どうしてお前は……!」 おっさんの目からは、涙が溢れていた。 中年の男がこんなふうに顔を歪め、子どもみたいに泣く姿を俺は初めて見た。 悔しくて、悔しくて、堪らない、 そんな顔をしていた。 「どうして……お前は、私をこんなに惨めな気持ちにさせるんだ……!!」 「………………」 「どうして罵ってくれない?どうして殴り飛ばしてくれない…?拳銃を突きつけられるべきは、私だった筈なのに……!」 獣が呻くように泣き崩れ、おっさんは床に突っ伏してしまった。 その小さな丸い背中を、先生がそっと撫でる。 与えられた優しさが、痛い時がある。 向けられた同情が、堪らなく自分を惨めにさせることがある。 それは、俺にも痛い程分かる。 おっさんは、自分が嫌いで嫌いで仕方ないのだ。先生が羨ましくて堪らないのだ。 だから、先生を心の底から憎むことしかできなかったんだ。 ーーーーきっと。 「……なあ、チー坊。僕は友達が少ないんだ」 「………………」 「……お願いだよ。ずっと僕の友達で居てくれ。……お願いだ」 それから先生は、おっさんの涙が止まるまでずっと背中を撫で続けていた。
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