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「……あれ、本当に、本物の札は三枚だけだったんですか?」
「ええ」
結局、黒沢のおっさんは先生の通帳を受け取ることなく帰っていった。
そして、これからの借金返済は弁護士に頼んで自らが返済していくと先生に約束した。
勿論、谷崎組が請求している違法な利息分を除いた額を、だ。
先生が谷崎組の組長と昔ながらの知り合いだってことが明らかになったからには、これから先、あいつらやその仲間がここへやって来ることはなくなるのだろう。
おっさんの債券が谷崎組に渡っていたのは、今となれば不幸中の幸いだったということだ。
「……三枚は本物でしたが、後はすべて偽物です。僕、そんなにお金持っていないですから……」
「マジかよ……よく坪内にバレませんでしたね……」
「あはは。彼はとても、騙されやすいタイプに見えましたからね。一枚、新聞紙をお札に変えた時点で、彼はもう、冷静な目線を失っていましたから」
坪内が箱に手を突っ込んで札を確認した時、あの時にもし偽札だとバレていたらーー、そう考えるとゾッとした。
先生はテーブルに散らかった新聞紙を掻き集めながら、苦笑いをしている。
「……でもあの、髪をツンツン立てた、若い男の子には、ばれていたみたいですね」
「ああ……あいつは……」
「彼はきっと立派な極道になるでしょうが、お抱え手品師になるのは、お断りしたいですね。ああいうタイプを騙すのは、とても難しい」
まっとうに生きようとしている人間に手を出そうとする坪内はクソだ、と言い放った三島は、きっと初めから俺たちに危害を加えるつもりなんかなかったんだろう。
あいつは下っ端のくせに、坪内よりずっと、いっぱしのヤクザに見えた。
まあ、そんなこと、今となってはどうでもいいのだけど。
それより、俺は先生に聞きたいことがたくさんあった。
この家のこと、
小鳥遊一二三という名前の先生の師匠のこと、
そして、どうして先生が手品をやめてしまったのかということーーーー。
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