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しかし、それはかなわなかった。
「優作さん、あの、ツンツン髪の男の子に言っていたことは、何だったのですか?」
「へ?」
「……お前が言ったこと、何でもするって……」
「あ、ああ!」
そういえば、そんなことを言ったっけ。
あの時はただ夢中で、何も考えずに口走ったけれど、今思えば俺はとんでもないことを言ったものだ。
人生保守派の俺が、まさかあんなことを言ったなんて、今でも信じられない。
「三島が、教えてくれたんですよ。俺なら、ちょっと身体を使えば、金になるかもって」
「…………」
「あいつ、坪内、男もイケるらしくて、あいつの機嫌とるために、あいつの性処理の相手になれば、借金ちょっと大目に見てくれるかもしんないって」
おかしい。
何か、先生の様子が変だ。
新聞を集める手を止め、俯いて眉を顰めている。
さっき、坪内とやり合った時のような、まるでいつもの先生とは別人のような顔をしていた。
「やっ、でも、ほら、坪内がいくら男好きっつっても、俺でイケるかどうか分からねーし、今思えばちょっと自分を過大評価しちまってたなー、とか、その……でも、それくらいしか俺にできることないしさ」
先生は沈黙したままだ。
気まずい空気をを取り繕うように、俺は一人ベラベラと喋り続ける。
「二三発掘られるくらい平気かなーとか思ってたけど、結局、何もなくってラッキーだったなー、みたいな、あははははは!」
「優作さん」
「はっ、はい!?」
急に名前を呼ばれ、俺は無意識に背筋を伸ばしていた。
先生の顔がこちらを向く。
その目が、責めている。
俺を、だ。
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