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「……誰が、そんなことをしてくれと言いましたか」
「えっ……誰がって……ただ……先生が危なかったから……」
自分の掌がいつの間にか汗だくになっていた。
「……俺、よかれと……思って……」
「……優作さん……きみは、もうここに居ない方がいいかもしれませんね」
ああ、
なんだろう、
そう、
そんな言葉が、先生から飛んでくるんじゃないかって、俺は少し前から気づいてた。
ここに居ない方がいい、
その言葉が、矢のように俺の胸に突き刺さった。胸からは、多分、血が流れてる。
「……もしかしたらまたいつか、彼らがやってくることがあるかもしれません。今回も、関係のないきみには怖い思いをさせて、申し訳なかったと思っています」
関係のないきみ、
関係の、ない。
そうだよな。
昔から仲間だった黒沢のおっさんと俺じゃ、立場が全然違う。
俺はただの居候で、先生のことなんて何にも知らないし、
今日の事件にも、関わる必要なかった人間だ。
「……落ち着いたら、すぐに出て行きなさい。他に頼れる人が居るのなら」
先生はそう言って、台所から出ていってしまった。
静かなその足音が、段々遠ざかっていく。
俺は頭がぼうっとした。
怒った。
先生が、怒った。
俺が、怒らせた。
俺が余計なことをしようとしたからだ。
今まで、先生に出て行けと言われたことは一度もなかった。
自分は、そりゃいつかはここから出て行くことになるだろうと思ってはいたし、金が貯まらなくても、またマリアちゃんの所に転がりこめば、生活はどうにかなる。
でも、
まさか、こんなにショックだとは思わなかったのだ。
優しい先生に突き放されるというとが。
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