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焼き鮭、
梅干し、
塩昆布、
炊きたてごはんに、
パリパリ焼き海苔。
あれからすっかり日が暮れ、夕飯の時間になったものの、先生は自分の部屋から出て来ようとしてくれない。
いつもなら、この時間になるとお腹をさすりながら「今夜の夕飯は何ですか?」って、楽しそうに台所を覗きに来るのに。
(腹は減ってる筈なのに)
俺は掌にのせた炊きたてごはんの真ん中にぽっちりと具を埋め込み、両手で包むようにして三角のおにぎりを握った。
それをいくつもいくつも作って、大きな皿にのせていく。
部屋に持っていけば、きっと食べてくれる筈だ。
先生は怒っている。だから、姿を見せないんだ。
もしかしたら、いらないと言われるかもしれない。
(何だよ、本当は、俺が怒る方なのに)
でも、俺はそうするしかなかった。
このまま先生に拒絶されるのは、絶対に嫌だった。
この家から出て行くにしても、絶対に嫌だったのだ、
山のように積んだおにぎりの皿の端に、スーパーで買った先生の大好きな白菜のお新香をのせて、俺は先生の部屋に向かった。
先生の部屋までの道のりが、やけに長く感じる。
廊下が、ずっと、ずっと先まで続いているようだ。
足が、重い。すごく重い。
まるで鉛の足枷をつけているように。
何で、
何で俺が先生ごときに、こんな思いしなきゃいけねーんだよ。
俺は見えない足枷を引きずりながら、やっと先生の部屋の前に立った。
珍しく、障子の扉が閉められていて、中の様子を窺うことができない。
俺は緊張していた。
きっとまた、先生からあの責めるような眼差しを向けられるのだと思うと、何故か障子を開けることができなかった。
「あっ、あの、先生っ……!」
くそ、しまった。
声が裏返った。
中から、返事はない。
もしかしたら寝ているのかもしれないと思ったが、障子に映る影で分かる。
多分、文机に向かって、座ってる。
ちゃんと起きているということだ。
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