第四章 「マネー!マネー!マネー!」

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すると、先生の掌が俺の頭にふわりと落ちてきた。 大きなその掌が、そっと俺の髪を撫でる。 ああ、 そうだ。 ずっと、こうして欲しかった。 この瞬間を、心の底から待ち望んでいたんだ。 俺はほっ、と息を漏らした。 「迷惑ではありません……でも」 「……でも?」 「きみを、また危ない目に遭わせるのだけは、嫌です」 迷惑じゃないなら、 そう思っていないなら、 先生は嫌じゃないってことだよな。 俺は身をのりだして、先生の両肩を掴んだ。 「つ、次は、ちゃんと、逃げます、俺!」 「……不安です」 「俺、逃げ足は早いし、ほんと、ほんとです」 先生がじっと俺の目を見つめている。 その目に、何もかも見透かされてしまいそうで少しだけ怖くなった。 でも、先生なら、構わないと思った。 どこまで見透かされたって、平気だと。 「それでは、約束してください」 「…………」 「絶対に、自分を粗末にするようなことはしないと」 ああ、 たまらなく、胸が震える。 胸の奥が、熱くて、震えて、ハレツしそうで。 俺は何度も頷いた。 先生が悪戯っぽく突き出した小指に、俺は自分の小指を絡ませる。 繋いだそれを、軽く上下に揺らして、ゆびきりげんまん。 こんなの、子どもじみてる。 なのにすごく嬉しい。 ずっと繋がっていたいと、そう思ってしまう。 俺は、多分、もう落ちた。 まっさかさまに。 「さあ、ちゃんとテーブルで食べましょう。おにぎり」 「あ、そうだ、先生……」 「何ですか?」 「今日の面接、どうだったんですか?」 「…………落ちました……」 「えっ、マジで?」 「僕が応募要項を見そびれていて……」 「…………」 「初心者の新規採用は、45歳までだと…」 「…………」 「…………」 「……先生、宝くじでも買いましょうか」 「うん……それがいいかもしれません」
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