第五章 「ヒア・カムズ・ザ・サン」

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先生が猫を拾ってきたのは3日前の話だ。 ゴローを連れて散歩をしている最中、公園の入り口に段ボール箱に入れられて放置されているのを見つけたらしい。 最初は数匹居たようだが、他の仲間はもう既に誰かに引き取られており、その一匹だけがぽつんと取り残され、小さな鳴き声をあげていたそうだ。 それは生後間もない子猫で、先生が家に連れ帰ってきた時は目やにで目が塞がってしまっているような状態だった。 ちゃんと綺麗に洗ってやると、そのまんまるい目をきゅるり、と開いた。 にゃあにゃあと鳴くその姿は小憎らしいくらい、可愛い。 白い毛に、黒斑の模様。 丁度鼻の下の辺りに黒斑があり、それがチョビヒゲのように見えたため、俺はそいつを「ワガハイ」と名付けた。 先生は「チョビ」を推したが、俺は断固として譲らなかった。 先生には呼びにくい、と苦笑いされた、が。 ……そう。 ワガハイは猫なのである(なんちゃって)。 「優作さん、ワガハイの餌は……」 「あ、はいはい。ちょっと待って下さい。持っていきますから」 俺が台所で朝飯の片付けをしていると、先生がひょっこりと顔を出した。 俺は振り返らずに答え、濡れた手をタオルで拭った。 冷蔵庫から出した牛乳を、少しだけ底の深い皿に注いでいると、思わず溜息が漏れた。 なかなかバイトも見つからず、自分たちの食事すら切り詰めに切り詰めているというのに、犬やら鳩やら猫やら。 この家で動物園でも経営するつもりか。 先生は一体何を考えているんだ。餌代もバカにならないってのに。 …いや、先生のことだから、必殺お人好しを発揮しただけで、多分、何も考えていないんだろうけれども。
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