第二章 「スターゲイザー」

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まるで形状記憶合金みたいに、ゴムの輪っかが星の形になっている。 俺が先生の手元を覗き込むと、先生は星の形になってしまった輪ゴムを指で摘み上げ、それをひらひらと俺の目の前で振ってみせた。 「ふふ。これはね、"スターゲイザー"っていう手品なんです」 「"スターゲイザー"……?」 「輪ゴムふたつでできる、とってもお手頃なお星様です」 先生は俺の手首を掴み、俺の掌の上にそっとその星型のゴムをのせた。 「ほら、優作さん、お星様がきみの手の中だ」 掌に乗った星は、 天体望遠鏡のレンズから覗いた夜空の星に比べれば、呆れるほどに貧相で。 「……随分安っぽい星ですね」 「ふふふふ。貧乏な僕らにはぴったりです」 たしかに、そうだな。 先生の言う通りだ。 まだまともな職すら見つかっていない俺たちに、ぴったり。 俺はその星をひとさし指に通して、くるくると回すように弄んだ。 「きみに、似ているなと思いました」 「へ?」 「幸樹くんが」 俺の一歩先を歩き始めた先生が、顔を真上に向け、夜空を見上げながら言う。 それは非常に心外な言葉だった。 が、ついさっき、自分でもそう思ってしまったのだから、否定のしようもない。俺はなんだかばつが悪くて、口籠もった。 「それは俺がガキっぽいっていうことを言いたいんですか…」 「いいええ、そういうことではなくて」 一瞬、間が空いて。 「なんだかさびしそうに、見えたんです。はじめて会ったときから」 俺は言葉に詰まった。 さびしそうに見えた? 俺が? 「べつに、俺は」 さびしがって自殺しようとしたわけじゃないです、 と、言おうとしたが、止めた。 先生が、あんまりににこにこと笑いながら空の星を眺めていたからだ。 その邪魔をしたくなかった。 その代わり、 「そんなに反らしたら、すぐに首を痛めるぞ、ジジイめ」 とだけ、胸の中で毒づいておいた。 「……帰ったら、教えて下さい」 「?」 「スターゲイザーの、やり方」 「ええ。いいですよ」 「……幸樹が今度うちに来た時、自慢してやるんで」 「ちょっぴり難しいけれど、大丈夫かなあ」
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