第一章 「カウント・スリー」

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背伸びをして結びつけた縄を解こうとするが、縄同士がしっかりと絡み合っているせいでなかなか外れてくれない。 当たり前だ。ぶらさがった時にすぐ外れないような結び方をちゃんとインターネットで調べて、実行したのだから。 結び目の間に爪の先を入れて引っ張ってみても、それは緩みもしない。 もう、こうなったらこのまま縄だけ放置していくしかない。 朝、ちょっとした騒ぎになるかもしれないが、俺には関係ない。 「ワン!ワン!」 俺がまごついていると、突然、正面から犬の鳴き声が聞こえた。 それに驚いたせいで台座のゴミカゴが斜めにぐらつき、俺は地面に落下しそうになった。 「おっ、わっ……!」 俺は慌てて縄を掴み、やっとのことで踏みとどまる。 しかしゴミカゴががくんがくんと前後に揺れ、バランスがうまく取れない。 「ワン!ワン!ワン!」 「の……野良犬か……?」 俺が辛うじて足を乗っけているゴミカゴの傍で、犬はけたたましく吠えまくった。柴犬というのだろうか。やけに、りん、と背筋の伸びた犬だった。 首にはしっかりと首輪をしている。野良犬ではないようだ。 「ワン!ワン!ワオ~~ン!」 「うっるさ……!お前、あっちいけよ、しっ、しっ!」 片足をぷらぷらと振って追い払おうとすると、犬は突然その表情を変化させた。暗闇の中、犬のまんまるい瞳がきらきらと輝く。 ふさふさのシッポが車のワイパー並に左右に揺れ始めたと思ったら、犬は浮いている俺の片足を掴もうと、必死で前足を上げてジャンプを始めた。 ものすごい跳躍力だ。 「なっ、おまっ、何やってんだバカ犬!俺は遊んでやってるんじゃないっての!」 「ワン!ワン!ワフッ!ワフッ!」 「あっち行けってば!しっ、しっ!」 当たり前だが犬には俺の言葉は全く通じていない。犬は舌をぷらんと出したまま上機嫌。シッポの動きはマックス状態。 その時、こちらに向かって駆けてくる足音が聞こえてきた。もしかしたらこいつの飼い主かもしれない。 俺は焦った。 さすがにこんな姿を見られるわけにはいかない。 俺は慌ててゴミカゴから飛び降り、この場から逃げようとした。 しかし、瞬間、ジャンプを繰り返していた犬の前脚がゴミカゴに当たり俺はまた大きく揺れた。
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