終章 「ある一流手品師の口上」

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先生が手品師稼業を再開したのはいいものの、この調子じゃ、また暫くの間は貧乏生活が続くのだろう。 俺の職探しも、取り敢えずは年が開けてからでないとできないし。 ああ、せっかく、大晦日と元旦くらいは、先生とふたりでいいものを食べようと思っていたのに。 頭つきの海老に、大ぶりのかずのこ、甘いくりきんとんに、昆布巻き。 頭に思い浮かべていた豪華なラインナップが夢となって無残に散っていく。 とにかくまず年越し蕎麦はカップラーメンで決定だな。 俺は大の字に寝転び、瞳を閉じて大きく溜息を吐いた。 すると、突然腹の上にずっしりと何かをのせられたような重みを感じて、俺はうめき声を上げた。 「ウゲッホ!!な、な……?」 目を開けて確認すると、何故か俺の腹の上に尻尾をふりふりしているゴローが前脚を揃えて座っていた。 よっぽど上機嫌なのか、ワイパーのように尻尾が左右に振れている。 ゴローの口に、何かが咥えられているのが見えた。 それは、お札と同じくらいの大きさの紙きれだった。 「こら!ゴロー、紙を食うな紙を……さっきドッグフード食べたろ……」 きっとゴローが遊ぶためにどこからか持ってきてしまったのだろう。 俺は上体を起こして、ゴローの頭を撫でながら、口に咥えているその紙切れを掴んだ。 「……ん?ゴロー……これ……」 その紙切れに、俺は見覚えがあった。 さらりとした生地の紙に、ピンク色の鮮やかな模様。 紙の左上に、いくつかの数字が並んでいる…… ーーまさか、これは。 俺はカッ、と目を見開く。 絶対に破れないようにゴローの口からそれをそっと奪い取り、俺はぎりぎりまで顔を近づけてその紙切れを眺めた。 「こ、これは……!!」 「ふふふ……前に優作さんと話していたことを思い出しまして……、イギリスに立つ前につい、買ってしまっていたんです」 先生は鼻をつん、と上向け、得意げにそう言った。 これは、紛れもなく年末ジャンボ宝くじ! 当たれば、一等7億円。 一攫千金、億万長者。 俺の頭の中で、今までの人生の中では口にすることもなかった美しい四文字熟語がぐるぐると巡る。
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