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アリストテレスはこう言った。 「握り拳じゃ大したことはできないが、開いた手でなら何でもできる。それは心もそうだ」と。 彼は心に例えたが、人にも例えることができると思う。 周りは普通に手を開いていられるけれど、私はきっと拳を握ったまま。 世界に恐れて、いつでも「自己防衛」と称して、拳が繰り出せるように。 その恐怖心を悟られないように、強く見せるように。 開いてしまうのは簡単なこと。 しかし、人を恐れていてはそれさえも難しい動作に思えてしまうの。 1人で外を歩くのは楽だけど、2人で外を歩くのは難しい。 そう思うようになったのはいつからだろうか? 人の様子を伺って生きるのに疲れた頃、私は泣いていた。 きっと一緒に歩いている人は手を開いてるんだけど、私の手はそこでもまん丸。 「ジャンケンだと普通に負けてるね」って笑いかけてみても、虚しくなるだけ。 だったら口を閉ざしてしまえばいい。 気がつくと体まで丸くなっていて、目の前には膝坊主。 そんな私を、大きく開いた手で包み込んでくれた人がいた。 「勝ち負けじゃないよ、怖いんだよね」って言った人は、私の拳を握りながら震えている。 開いていても怖いんだ、何でもできるその手だからこそ、怖いんだ。 この拳は人を傷つけることしか知らない。 余計に恐怖心は増して。
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