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prologue 零《れい》
ーーーーーあなたには一生忘れられない心象風景が有りますか?ーーーーー
そこは何もない闇。上も下も、自分自身ですらも見失うほどの暗黒。存在するのは、己の手中に握りしめた空腹と怒りと痛みと嘆きだけだ。
目を凝らした先には、一条のか細い光。
それはコインロッカーのドアの隙間から差し込む光だ。払う金が無かったのか、空気穴のつもりだったのか。ロックされなかった箱の中で、赤子(零)はかろうじて命を繋ぎ止められた。
かの女は、命までは取る気はなかったのか、ただ自らの罪を増やしたくなかっただけなのか。いずれにしても、到底感謝する気にはなれない。
目を覚ましてすぐ、零は蛍光灯照明に付属する豆電球の灯りを消した。零は駅のコインロッカーに捨てられた子供だ。赤子の頃の記憶など無い筈なのに、零は黒闇と狭い空間に恐怖を覚えてしまう。だから寝るときも小さな灯りだけは灯して寝るのが、すっかり習慣となってしまっていた。
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