第1章 夏の始まり 楓夏

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教室に入るとほとんどのクラスメイトはもう登校して来ていた。 教室の後ろのほうでは坊主頭の集団、野球部の人たちが集まって何か話しているし入り口の付近では私とはあまり仲が良くない派手目の女子グループが雑誌を開いて流行りの服装について議論している。 彼女たちの邪魔にならないように身体を縮こませながら、窓際の前から三番目にある私の席にまっすぐ向かっていく。 「おはよう楓夏。今日も朝練だったの?」 「おはよう。うん、そうだよ」 私が来るのを待ち焦がれていたかのように、一つ前の席の麻里が後ろを振り返って話しかけてきた。 麻里の机の上には黒と赤の色が混じった英文がぎっちり書かれたルーズリーフと受験生なら誰でも知っている有名私大の赤本が胸を張って堂々と並んでいる。 「ねーふうかぁ、ここ解んないんだけど……」 子どもが親におねだりする時のような甘い声を聞かされながら赤本の問題を見せられた。この話し方で私が喜ぶとでも思っているのだろうか。 「これはね……」 麻里が解らないと言った問題は英文の穴埋め問題だった。英語の成績が麻里より断然良い私ならすぐに解ると麻里は思ったかもしれないけれど、大学入試の過去問はやっぱり難しい。 腕を組んでうーん、と唸りながら数十秒真剣に考えこんだ。
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