第1章 夏の始まり 楓夏

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蝉の鳴き声もしないし、運動部の朝練の掛け声も、登校してきた生徒たちの話し声だってしない。開けっ放しにした音楽室の窓の外からは何の音も聞こえてこない。 よし、今日も集中出来そうだ。 三年間愛用してきたトランペットを手に持って軽く吹いてみる。ブゥー、と乾いた低い音が宙に浮いて行き先を見つけられずに消えていった。 何百回も練習したコンクールの課題曲を吹いてみる。強弱をつけるポイント、息継ぎのタイミング、全て私の思いどうりに出来た。だけどトランペットの先から出ていった音たちに満足出来ない。 何かが足りない、と思う。
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