第1章 夏の始まり 夏樹

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「あれ、夏樹もう帰るの?」 「あぁ、用事があるの忘れてた」 もちろん嘘。用事なんかない。 「そうだ雄二、今日うちのクラスの女子たちがお前のことエロ猿って呼んでたぞ」 部室のドアに手をかけながらそう言った。 ドアを開けて外に出る。部室の中では大きな笑い声が起こっている。これでもう話があいつのことになることはないだろう。 昼間は合唱コンクールのようにパート分けされたように様々な声でミンミンと鳴いていた蝉たちも、辺り一面暗闇に包まれてしまったこの時間だと一言も声を出さないから不思議だ。 運動部の部室が集まっている部室棟の階段を踏み外さないように気をつけて降りていく。 この階段は一段一段高さがあり、グラウンドの土が溜まっていてたまに踏み外して怪我をする生徒がいる。
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