第1章 夏の始まり 夏樹

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「裕也がおらんくなったらすぐに負けるだろーが」 俺は再び歩き出しながら言った。 「野球はチームスポーツだぜ。一人の力で勝ち上がれる訳じゃねーよ」 裕也も歩きだす。俺よりも足が長く歩幅が大きいからすぐに追い抜かれてしまう。 「それに、夏樹がいるから俺は怪我を恐れずにプレー出来るんだよ。」 俺はお前の代役にはなれねえよ、と心の中で思ったけれど口には出さない。 「県大会頑張ろうな……」 「おうっ」 野球部は今年、創部以来初めて県大会に駒を進めた。 県を南部と北部に分けて行う地区予選、毎年夏の大会はここから始まる。強豪校にとっては地区予選なんか何ともないだろうが俺たちにとっては地区予選突破が甲子園出場みたいな感覚だ。 先週の金曜日、勝てば北部大会ベスト8になるという試合、激しい点の取り合いでシーソーゲームの展開の末、雄二のサヨナラヒットで我が野球部は勝った。 万年二回戦どまりだった高校にとってこれは快挙と言って良い。 南部と北部のそれぞれのベスト8、合計16校で行われる県大会、その16校の中にうちの学校の名前があるのだ。 組み合わせ表を見たとき、それだけで胸が高まった。
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