第1章 夏の始まり 夏樹

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俺より体重があるからなのか、やっぱり裕也の自転車のほうがスピードが出るから俺だけ立ち漕ぎをして追いつこうとする。 蚊でも子バエでもない、よくわからない小さな虫が時々顔にぶつかってくる。 「つーか、鈴音さんだって部長だろ?そりゃあこの時期は部活に専念したくなるだろ」 「だからって全く会わないって酷くないか!?」 まーそうかなぁ、と見事にお茶を濁しされた。 「最後のコンクールだから。夏樹だって最後の大会でしょ」 頭の中で楓夏の声が蘇ってくる。 部活に集中したいから会わないでおこう、そう言われてから一週間以上楓夏とは会っていないし、メールやラインもしていない。 俺には楓夏の考えが理解出来ない。高校生活最後の大会の前だってきちんと練習して、やることはしっかりすれば部室でワイワイ騒いだって良いし、彼女と一緒に帰ったり電話したりしたって良いと思う。 目の前に宝箱が二つあって両方鍵が開いていたら俺は二つの中身を迷わず取っていく。
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