第1章 夏の始まり 夏樹

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「とりあえず連絡くらいしてみろよな。恋は先手必勝、後ろは見るな」 じゃな、と言って裕也は国道の交差点を駅のほうに曲がっていった。裕也の家は逆方向なのに週に何度か何故か駅のほうに向かっていく。 裕也が言ったことの後半は俺の好きなアイドルの曲の歌詞だ。 楓夏に告白した時も裕也は確か同じことを言ってくれた。 裕也の言葉は俺にいつも勇気をくれる。代打で試合に出る時も、ベンチを出るときに裕也が一言声をかけてくれたらヒットを打てることが多い。 さっきまでは進行方向から吹いてきて顔に吹き付けていた夜風が今度は背中に当たるようになった。 今なら自転車はもっとスピードが出る。どこまででも行けそうな気がする。 恋は先手必勝、恋は先手必勝、後ろは見るな。 何度かそう呟いて俺はズボンのポケットから携帯を取り出した。
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