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「部長、おはようございます」
「絵理先輩昨日のドラマ見ましたか?」
「すみません部長、明日の練習急用が出来たんで休ませてください」
もうすっかり朝早く学校に来ることに慣れた後輩たちは眠そうな素振りを一切見せないで私や絵理に話しかけてくる。
私は親が付けてくれた自分の名前が好きだ。
楓夏、ふうか、フウカ、
漢字で書いてもひらがなでもカタカナでもとにかく可愛く見える。もちろん声に出してみても可愛いと思う。だからどんどんたくさんの人に名前を呼んでもらいたい。
「部長そろそろ始めようよ?」
絵理が私の顔を覗き込みながら言ってくる。
もっと私の名前を呼んで欲しいのに、去年の夏から吹奏楽部内での私の名前は‘‘部長’’になってしまった。一つ年上の先輩たちが引退になって私たちの学年が最上級生になった。私たちの学年はもともとの入部者が少なかった上に、退部してしまった人も多かったので、その頃には私と絵理の二人だけになっていた。
代々私の学校の吹奏楽部は引退する部長が次の部長を指名する。
姉妹のようにいつもみんなと仲良く接する絵理と、母親のように一歩引いて全体を見て厳しいことも言える私、部長に選ばれたのは私だった。
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