第2章 涙の理由 楓夏

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結局お昼以降の授業も私は一人蚊帳の外になっていた。 教科書に書いてあることをわかりやすく説明しようとする先生の声も、そんな先生の話を聞こうとしないで私語をする人の声も、いつもは夏の代名詞だからしょうがないかと許せるセミの鳴き声も何もかもがうるさく聞こえた。 なんでこんな悲しい気持ちで引退しなくちゃいけないんだろう。 もう少しで私と絵理はいなくなるんだからもうちょっと我慢してよねゆみちゃん、なんてゆみちゃんに対して怒りを覚えている私がいたりする。 「ここはよく入試問題に使われて……」 先生の声に反応して一斉にみんなの座高が低くなって、ほおづえをついて窓の外をぼんやり眺めていた私が目立ってしまう。 先生は何か重要なことを口にしたみたいだ。はっとして教科書に目を移したけれど、教科書は最初の目次のページを開いたままになっていて数十分前の自分に対しても怒りがこみ上げてくる。 駄目だ、イライラする。
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