第1章 夏の始まり 楓夏

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私たちが今演奏しているのはクラシックの名曲、音楽室の壁一面に飾られたたくさんの人物画の中の誰かが何百年も前に作った曲だ。 これまでにも何百回、何千回と演奏されてきただろう。 今年の夏は日本中の高校の吹奏楽部がこの曲を様々なアレンジを加えて練習していたはずだ。私たちも朝練、放課後の練習と何度も何度も繰り返して練習した。 先生の指揮がゆっくりと止まっていく。空中で踊っていた音たちが静かに消えてしまう。 「コンクールの時よりもさらに精度が上がっています」 岡本先生の口から褒め言葉が出てきて、みんなの頬が緩んだ。 二日前の土曜日にコンクールの地区予選が行われた。 地区予選8位入賞、 これが三年生の私と絵理にとっての最後の大会の結果となった。三年間の全てをぶつけることが出来たから悔いはない。
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