第1章 夏の始まり 楓夏

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地区予選3位以上の高校は県大会に進んだ。8位の私たちは敗退、普通なら三年生は引退になる。 それなのに私と絵理は今日も今までと変わらずに朝練に参加して、私は今日も後輩たちから部長と呼ばれたままでいる。 私たちの高校は進学校、どの部活動も決して強くはなく毎年七月の頭には三年生のほとんどが引退している。でも今年の夏はいつもと違う。 奇跡と言ったら失礼だけれど奇跡としか言い表せないことが起きている。 「はいこれ、みんな一枚ずつ取ってね」 コンクールが終わってから絵理と二人で必死に作った楽譜のプリントを全員に配っていく。 プリントの一番上には絵理のお手本みたいな丸文字で‘‘応援歌リスト’’と可愛く書かれている。 この楽譜に並んでいる音符たちを奏でてみてもコンクールの課題曲みたいに固い音楽にはならない。 最近流行っているドラマの主題歌、王道の野球アニメのオープニング曲、運動会とかでよく使われている応援歌とかを二十一曲選んだ。 「私でも知っている曲がけっこうありますね」 受け取ったプリントを見ながら岡本先生がポツリと呟いた。 選曲が古臭かったかもしれない、と少し不安になったけれど後輩たちは、楽しみーとか、これぞ青春だ、とか言ってただただはしゃいでくれたからホッとした。
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