5人が本棚に入れています
本棚に追加
「えーとっ、みんなも知っている通り吹奏楽部は野球部の応援をすることになりました。今日の放課後の練習からはこのプリントの楽曲をしっかりと仕上げていきたいと思います」
さっきの反省を活かして今度は明るい声で放った私の一言で朝練は終わった。
野球部が創部以来初めて地区大会を突破して県大会に進んだ。校長先生が吹奏楽部に試合中の応援をして欲しいと頼んでいる。
岡本先生からこう伝えられたのは、コンクールの結果発表の直後、市民ホールのロビーで絵理と引退してしまうことを悲しんでいた時だった。
けっして私たちが主役ではない、完璧に脇役だけれど形はどうであれもう少しだけみんなと部活が出来ると思うだけで、悲しみの涙が喜びの涙に変わった。
「楓夏、教室行かないの?」
プリントの楽譜を見ながらついこないだの土曜日のことを思い出していたら意識が飛んでいたみたいだ。絵理に呼ばれて我に返る。
「行くよ。行く。ちょっと待ってて」
いつの間にか岡本先生も後輩たちもいなくなっていて音楽室には私たちしかいない。
ベートーベンや滝廉太郎の視線が私たちに集まっている気がする。
私は急いでトランペットをハードケースに片付けて、開けっ放しにしていた窓の戸締りをしていく。
窓の外を見るとたくさんの生徒たちが登校して来ているし、さっきまで眠っていたセミたちが朝の挨拶をするかのようにミンミンと鳴いている。
「楓夏早くしてよー」
手鏡で前髪がおかしくないか確認しながら絵理はブーブー文句を言っている。
部活中は部長と呼んでくる絵理だけれどそれ以外の時間、友達として話している時は私のことを楓夏て呼んでくれる。
ちゃんとめりはりをつけて行動する、絵理のそういう所が私は好きだ。
戸締りを終えてカバンを持って絵理の元にもかけよる。
「お待たせ」
「じゃあ行こう」
最初のコメントを投稿しよう!