第1章 夏の始まり 楓夏

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音楽室から一歩外に出ると騒がしい日常がもう始まっていた。 廊下やそれぞれの教室には、登校して来てホームルームまでの時間を持て余している人たちの声や音が溢れている。 一人でトイレに行くことが恥ずかしいと思っている女子たちの馬鹿みたいに大きな話し声、校則違反ギリギリのラインで制服を着崩してワックスできっちりと髪の毛をセットしている男子たちの廊下を走る音に、私と絵理の会話はすぐに埋れてしまう。 「まだ夏樹と喧嘩したままなの?」 それでも絵理の声はしっかりと私の耳まで届いてくる。 どんなに聞かれたくない内容でも。 「うん……」 「早く仲直りしなよね。どんどん気まずくなるよ」 私の頭をポンと軽く叩いて絵理は三年二組の教室に入っていった。 教室の中を横目でチラッと覗くと、友達と話している夏樹の姿が目に止まった。夏樹もこっちを見た気がしたので私は足早に隣の自分の教室、三年一組に入ってしまった。
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