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教室の机に頬杖をついて、青くて白い空を見つめる。
残暑も引きに引いて夏服から冬服に制服を変えた10月の朝、今日も時計の秒針は規則正しく時間を間違えながら教室の中の時を刻んでいる。
7時45分を指しているあの時計は、確か10分ほど早とちりして1年4組の時刻を教えてくれているはずなので、あと5分ほどでホームルームが始まる計算だ。
(退屈だなぁ……)
林原高校1年4組所属の結川(ゆかわ) ミリはそんな風に心の中で呟いた。
今日も先週と同じような授業を、毎日と同じように受けなければならない。
昼間からよだれをだらだら垂らして寝ているような男子生徒と同じように授業をサボタージュ出来れば楽なのだが、そんな勇気は流石に無い。
担任の教師が来るまであと5分というにも関わらず、教室はざわざわとやかましかった。
ふと思い立ち、机の脇のフックに掛けた学生鞄の中から携帯音楽プレイヤーをつまみ出す。
しかし、ドンと背中に受けた衝撃で、シャンパンゴールドのWALKMANはミリの手からこぼれ落ちた。
するりと指先から抜けたWALKMANは礼儀正しく出た所に帰っていく。
「ミリ~、おはよー」
ミリの背中に一撃を加えた主からの挨拶に振り向くと、そこには艶やかなストレートの黒髪を後ろに流した日本人顏の美少女が座った所だった。
長い前髪を桃色のヘアピンで横に分けているその少女は、気怠げなミリとは温度差の高い笑顔を向ける。
「おはよ、ユウコ」
短く挨拶を返したミリは、しかし再び学生鞄に手を伸ばすことはしなかった。
音楽を聴きながら友人と話すのは、ミリの趣味ではない。
「なぁーに、なんかテンション低くなーい?」
「ユウコが賑やかなだけで私は通常営業なの」
椅子の背もたれに右腕を掛けつつ、ミリは不平を言い立てた。
ユウコは机にどさり、と鞄を置いて教科書を取り出し始める。
「ま、それは置いといてー、ミリ知ってる?」
「何を?」
「今日ねー、転入生が来るらしいよ。男子」
「へぇー」
「あー、またそういう返事して。結構刺激的なニュースだと思ったんだけどなぁ」
ミリの反応が気に入らなかったようで、ユウコは不貞腐れたように頬を膨らませた。
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