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「んじゃ、またねー」
「うん、またねー」
オレンジ色の光を放つ太陽が西の空に消えかけている夕暮れに、ミリは十字路でユウコと別れた。
去っていくユウコを見送るミリは小さくため息を吐く。
楽しくなかった、訳ではない。
むしろ、こんなに楽しかったのはいつぶりだろうか、なんて感じている。
しかし、遊んでいる時間が楽しかった分、一人になると現実に引き戻された感が凄まじい。
ギャップの激しさにげんなりしてしまうのだ。
よく分からない諦めの思いを胸に抱きながら、ミリは家路に着く。
学生鞄の中から音楽プレイヤーを取り出してイヤホンを耳に差し、再生ボタンを押した。
イヤホンから流れているのは、少しだけマイナーなJロックだ。
ギターとベースとドラムと、あと他いくつかの楽器が音を奏で、そこにボーカルの声が重なり、切なげな歌詞を歌い上げる。
(ああ、つまんない……)
音楽を聴きながらぼんやりと思う。
(何か……起きないかな)
刺激的な何か、非現実な何か、漫画の主人公みたいな何か。
ふと、目の前の分かれ道にある人気の無い路地が目に入る。
「…………」
数秒間沈黙したミリは、すっと足をその路地に伸ばした。
(どうせ何も起こんないし)
両脇には廃れた木造住宅や、錆の浮いた、トタン屋根の廃倉庫が見える。
日は沈みかかり、辺りは薄暗い。
雰囲気的には、とても良い。
あの茂みから、何か出てくるかもしれない。
倒壊しかけた古い家の窓ガラスを割って、何かが襲いかかってくるかもしれない。
あり得ないような想像をして、ドキドキとしたスリルを味わいつつも、何処か心の中でミリは思う。
どうせ何も起こらない、と。
諦めにも似た、不謹慎な安心感。
それを、ミリは感じていた。
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