プロローグ

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ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。 もうあんなこと願いません。 だから、だから、だからっ、 (誰かっ……助けて……っ!) 少女は化け物の手の中で、必死にもがいた。 胴に回された化け物の手は体を締め付け、肋骨をへし折らんばかりに圧力を加え続ける。 「あっ……ぐ……!」 目の前にはSF映画に出てきそうな、昆虫のような姿をした化け物の口があった。 ギチギチと音を立てる口は、少女の頭を丸ごと噛み砕かんが如く開かれた。 粘性の唾液が少女の顔にかかった。 「ひっ……!」 息を呑み、少女は体を硬直させる。 (食べられる……!) 必死に両手を前に伸ばして、化け物の顔を押し返そうとする。 しかし、頸だけで凄まじい力は発揮する化け物の顔は少女の腕など存在しないかのように近づいていく。 「嫌っ……! 嫌ぁああっ!!」 既に少女の目からは大粒の涙が零れおち、恐怖に歪んだその顔は彼女の絶体絶命さを物語っている。 (もう……駄目っ……!) 少女は自分の死を悟った。 しかし、 『っ!?』 化け物は唐突に動きを止め、首を90度回転させる。 「……?」 化け物の視線を追うと、そこには1人の少年がいた。 「おい、化けもん……」 少年はポケットに手を突っ込み、敵意に満ちた瞳で化け物を睨んだ。 「オレの前で胸糞ワリィことしてんじゃねぇよ。ぶっ殺すぞ」 『ヒヒっ……』 昆虫のような化け物はギチギチと笑った。 少女は少年に向けて、手を伸ばす。 この際もう、誰でもいい。 「た、助けてっ……!」 「……ちっ」 少年はうっとうしそうに少女を一瞬だけ見た。 化け物は笑う。 『飯がもう一匹……今晩は大量だなぁ。ヒヒっ……』 「笑うんじゃねぇ。汚ねぇんだよ」 『アァ……? ガキぃ、こんな夜に、こぉんな所に来ちまって……運が悪かったなぁ……』 化け物は少女を地面に放り投げると、少年へと向き合った。
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