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「だって転入生って言っても男だし、どうせわたしとほぼ接点できないし」
「そーゆーこと言ってるから、いつまでたっても彼氏が出来ないんだよっ!」
「別に要らないし。クラスの男子にはドキドキしないんだから、しゃーないじゃん」
「冷めてるなぁー」
ユウコが呆れて顔をしかめながら机の中に教科書を入れた。
それと同時、担任が教室に入ってくる。
「ほら、お前らさっさと席つけー。今日は大事な話がある」
しっし、と虫でも追い払うような動きで手を振って生徒達を追いやる中年男性はミリ達のクラスの担任である、華澤(はなさわ)コウスケだ。
1人の男子生徒が華澤に話しかける。
「せんせー、転校生ですかー?」
「あぁ、それもあるな。全く、お前らは一体何処からそういう情報仕入れてくるんだ?」
「校長室に盗聴器仕込んどきましたー」
「よし、お前あとで指導室来い」
ふざけた二人のやりとりに教室内から笑いが起こる。
ミリもとりあえず周りに合わせて笑う。
華川という教師は、こういった『ノリ』に対して特に叱ることの無い人柄だ。
だから、生徒達からの人気もそこそこある。
「そろそろ静かにしろよお前ら、転入生が入ってこれないだろ」
「はーい」
ざわざわという雑音が少しずつ収まり、教室にある程度の落ち着きがつく。
「よし、じゃあ入ってこい」
華川が教室の外に向かって手招きすると、1人の男子生徒が教室内に入ってきた。
同時、ミリの耳にユウコの落胆した小さな声が届く。
露骨な反応に薄く苦笑いする。
(まぁ、分かんなくはないけど)
入ってきた男子はミリの目から見ても、カッコいいとは言い難い風貌をしていた。
茶色のフレームの眼鏡を掛けており、少し癖のある黒髪が小綺麗に整えられている。
目つきは悪く、それ以外は何というかパッとしない地味な印象だ。
第一印象は3年間クラスの隅っこにいて一回も話さずに卒業するタイプ。
卒業アルバムを見て、「こんな奴いたっけ?」なんて首を傾げてしまう感じだ。
むしろ、それが極まっていて印象深い感もある。
クラスメイトもユウコと同様の意見のようで、落胆が目に見えた。
「軽く自己紹介してくれ」
「転入生の南樫(みながし)エル……です。……よろしく」
そう言って、南樫エルは小さく頭を下げる。
ないわーあれはないわー、という背後から聞こえるブツブツとした声には、ミリは敢えて反応しない事にした。
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